特殊鋼の知識
磁性材料(1)
 磁性材料(平成12年春号)で軟質磁性材料(ソフト)と硬質磁性材料(ハード)の概要を述べましたが、今回は軟質磁性材料の基本的性質をお話しします。
物質が磁性材かどうかは磁石に吸引されるレベルにより強磁性体(鉄、コバルトなど)と常磁性体(非磁性体ともいう、アル ミニウム、銅など)に区分されます。
先ず特性を理解するため軟質磁性材料の磁化曲線(ヒステリシスカーブ)を図に示します。

 横軸に磁界強さHをとり縦軸に磁束密度Bを表したのが、B-H曲線です。
この磁化曲線から各磁気特性がいろいろ読み取れます。
透磁率は材料の磁化のし易さを表すものでμ(ミュー)を用います。
原点付近の磁界が小さいところでの透磁率O-Aを初透磁率と呼びμi(ミューアイ)で表します。
磁界の強さを増加していくと磁化の強さが増加してゆきE点で飽和します。
E点を飽和磁束密度といいBsで表します。
飽和磁束密度に達する磁化の勾配O-Dを最大透磁率と呼びμm(ミューエム)で表します。
次に磁界を小さくしてゆくと先ほどの線上に戻らず、E→F→Gをたどり磁化強さが減少し0になってもF点の磁化が残ります。
この点を残留磁束密度と呼びBrで表します。
さらに磁界の強さを反対方向に加えていくとF→Gと減少し、G点で磁化の強さが0となります。この点を保磁力(抗磁力)と呼びHcで表します。
軟質磁性材料はHcの小さいものの総称で、ヒステリスループの面積が狭いことを意味します。
硬質磁性材料はHcが大きく、ループ面積が広いほど高性能永久磁石となります。

軟質と硬質磁性材料の区分は一般にHc(保磁力)の大きさで分けられており、境界は明確ではありませんが、おおよそ800A/m以下を軟磁性材料と呼んでいます。当然中間の特性をもつ材料が存在するわけで、Hc800~1600A/mのものが半 硬質磁性材料と呼ばれています。
特性は外部からの磁化力により一度着磁した磁極(N,S極)を容易に反転できる性質を持ってます。
 
① 粉末焼結(Sintering)

 生産性が高く大量生産に適しています。とくに機械部品小物は昔から多用されており、鉄系はJIS SMF1~8種、ステンレス系SMS1~2種が規格化されています。
アトマイズ粉は100メッシュアンダ-(150μ)で平均75~80μが適用されます。
焼結密度が低い難点がありますが自己潤滑性を持ち、 耐磨耗性にすぐれます。
この性質を利用した含油軸受(オイレスベアリング)は昔から広く使用されています。 

用 途  機械部品 →  エアコン、OA機器、自動車
軸受け   → 家電機器モータ、一般産業機械(無給油運転)

最近では機能部品」の軟磁性材(純鉄、けい素鉄、パーマロイ)、非鉄系のアルミや半導体素子ヒートシンク(銅-タングステン)など用途が広がりつつあります。

② MIM(Metall Injection Molding)
 1960年代米国NASAで開発された金属射出成形法は複雑形状(三次元)が可能という特長から現在では炭素鋼から高合金、チタンまであらゆる金属の 製造が可能になりました。この製法はプラスチック射出成形と粉末冶金がドッキングしたもので焼結や  精密鋳造に比べて次の特長があります。
形状の自由度 三次元形状でかつ小さな穴、袋穴、薄いもの、シャープエッジが可能。
品質 高密度のため強度が焼結より高く、精鋳品と同等で寸法精度が良い。
この製法の利点は適用材質が広くステンレス、高合金、工具鋼、低膨張・封着材のインバー、コバール 軟質磁性材パーマロイ(PC、PB)、パーメンジュール(Fe-Co)などエレクトロニクスや光通信分野での需要が多い。